ビッグワードと大江戸線女子の会話

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麻布十番から東京競馬場へ向かうために始発から大江戸線へ乗り込む。
例によって一番端の席でウトウトとしていた。
六本木駅から朝まで遊んでいたと思われる女子2人が私の横へ。

「始発の六本木は混むなー」と思いながら目を閉じていた。
お隣の女子は席が1つしかなかったので、1人は立って2人で向き合う。
まるでバッテリー。そんな2人の間で目を閉じたバッターが1人。

会話が始まる。

どうやら彼氏の話をしているらしいことは分かった。
聞き耳立てていた訳ではないが、聞こえちゃうんだから仕方ない。
興味が全くないわけではないが、そこまでではない。

一通りスペックや住んでいる場所などを話している。

聞いていると、その彼氏の行動やお互いの言葉にいくつか気になる所はあったが、両者とも物分かりがいい。
「ねぇ、もっとそこ質問して突っ込んで。気になるから。」と言いたいが、当然言えず。

クイックモーションで放たれる「言葉」のボールは、小気味よいテンポで行き来する。
バッテリーの息の合った会話のコンビネーションは私を翻弄し、放たれる言葉のボールは生粋の荒れ球。
「さすが東京。とんでもないバッテリーがいやがる。」と駅に着く度に一息つき、打席を外す。

もう少し穏やかに会話のキャッチボールはしたらどうだい?と。

荒れ球に加え、切れ味鋭いカットボールや鋭く落ちるフォークを多用するピッチャー。それを難なく受けるキャッチャー。
普通の人だとキャッチすらできないだろう。
バッターボックスに立っている私は、何とかボールを追いかけているが、バットが出ない。時折放たれる素晴らしいボールに背筋が凍る。

手が出ない。三振か、いや外れてるだろ。
「ボール」と判定されて何とか粘って気持ちは2-2。追い込まれている。あのフォークが来たら今度こそ危ない。

次のサインが決まったらしい。

で、どこ出身なの?

至って普通の質問だ。
お題は出身地か。よしよし、これは普通だし、確かに興味ある。

そんなに変なボールは来ないだろう。回答は限られている。なんせ地名でいいんだ。
しかし追い込まれているこの打席。甘いボールをショートの頭に打ち返してやるとややバットを短く持って構える。
そんな私を嘲笑うかのように大きく振りかぶった。

 

静岡の藤なんとかというとこみたい。
静岡の藤なんとか?藤枝じゃない?
そうかも。藤なんとかって言ってた。
え、ヤバイじゃん。うちの親戚と知り合いが藤枝。
そうなの?それマジでヤバイね。
うん、ヤバイ。

 

ズバッとアウトロー。手が出なかった。途中から頭が追い付かない。
キタ!と思ったストレートは、ところがどっこいカットボール。高速で外側から一気に内に切れ込み、ベースをかすめるバックドア。

ここに決めてくる女子に脱帽。
まさかこのお題で「藤枝はヤバイ」という結論が導かれるボールが来るものか…。

頭の中をループした文字列は、残念ながら何度回しても回答を導かない。
お互いが話しているのは正真正銘の日本語であり、音として認識できている。

しかしわからない。

一体何がヤバイの???
藤枝市がヤバイの???それともあなたの知り合いがヤバイの???
そして両者とも何に共感できちゃったの???

自分の彼氏の出身地である藤枝市が「ヤバイ」という共通認識が構築され、話が終わった。
そもそも本当にそれでいいの?

納得の見逃し三振。あのボールでは手が出ない。
仮に私が知り合いだとしても話についていけないだろう。

あまりのボールを見せられて、笑うことしかできないバッターが1人。
バットを振らないお前が悪いとばかりに、「そう、そういえば…」と次の投球が開始された。

戦意を喪失した私は、予定通り新宿で降りた。
大江戸線のホームは深いが、人間もまた奥が深い。

藤枝市からすれば欠席裁判で有罪。その理由も語られぬまま。

なんの縁もない土地に対してなので、どこまで弁護できるかわからない。でも証言台に立ってもいいと思った。
与えられた情報のみで「ヤバイ理由」を判断すると、「親戚と知り合いが藤枝市」というのが唯一の判決理由だろう。
本当のヤバさは闇に葬り去られたままだ。藤枝市の闇も深い。

「東京にはとんでもない奴が地下に潜んでいる」と実感した朝の大江戸線の一コマ。

 

ビッグワードには気を付けよう

ここからは真面目にいきます。

グロービス経営大学院で「ビッグワード(Big Word)」という事を教えてもらったことがあります。
これは「非常に抽象的であり、いろいろな解釈を生んでしまうような言葉」と定義されていました。

例えば

  • 戦略/戦術
  • ビジョン
  • シナジー
  • ビッグデータ

などなどでしょうね。横文字系が特に多い気がします。

今回のケースだと「ヤバイ」はまさにビッグワードです。

人によって解釈が大きく違います。
美味しいものを食べて「これヤバイ」というのもありますし、苦いものを食べて「これヤバイ」というのもあります。

「ヤバイ」レベルが何なのかが共通認識としてないと、第三者は一体何のことなのかさっぱりわかりません。
今回の女子の会話も、2人は分かっていました(?)が、私は何が何だかわかりませんでした。

プロジェクトマネジメントをしていたり、提案系のプレゼンを書いていたりすると、この問題にぶち当たります。

特に提案の話だと、耳障りもいいから使いがちですし、とはいえ言い換えると逆に諄い表現になってしまい却って伝わりにくいんじゃないか?と悩みます。
「この話はこういうものですよ」というプレゼンを1枚入れてから「その上で御社の本題は○○です」という構成にすると、同じ話を2回するようでイヤです。

自分の中では答えがないので、注意するしかないと思いました。

  • 受け手によって変わりそうな言葉はなるべく使わない。言い換えを考える。
  • 使わないといけない場合、口頭で補足説明を入れる工夫をする。

ブログでもそうですね。

競馬ブログは見る人が限られているので、色々と省略しています。
同じ競馬題材でも、別サイトへ記事の提供をしていますが、その時はいつもより丁寧な書き方にしないといけません。

きちんと毎回意識高く書いてこそ磨かれるものだと思います。文章を書く能力を鍛えていかないといけませんね。


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